アイアムアレジェンド

今からするお話は僕の墓場まで持っていくはずだったお話。

心して聞いて欲しい。


19歳の夏。

大学も行かずバイトもそこそこに、ひたすらダラダラしていた僕にクリスティーナと言う女性からmixi経由で1通のミニメールが届いた。


また業者かなんかからの詐欺メールだろうと思いながらも開いてみるとそこには


シンガポールの人ですか?」


と書いてあった。

もちろん僕はシンガポールの人ではないが、少し面白かったので返事を出すことにした。


これが僕とクリスティーナの出会い。


何通かやり取りをしているうちにクリスティーナの事が段々分かって来た。


五つ年上である事。フィリピン人と日本人のハーフである事。日本語があまり得意ではない事。


こうなって来ると気になるのはそのお顔。僕は思い切って顔写真を送ってくれと頼んだ。

クリスティーナはひとつ返事でOKをくれた。


胸をときめかせメールに添付された写真をダウンロードする。

フィリピン人とのハーフだ、可愛くないはずがない。名前からして可愛いもの、絶世の美女に決まっているんだ。

ムスコも早く見せてよと言わんばかりに張り切っている。


ドキドキ、さぁどんなお顔なんだい?僕はダウンロードが完了された画面を覗き込んだ。


……


微妙だ…


絶妙に微妙だ!


ブスではないッ…ブスではないが期待が高すぎたのだ!


少し日焼けはしているもののクリクリとした瞳にシュッとした高い鼻。所々気になる部分はあるがそこは目を閉じよう。

充分じゃないか、充分クリスティーナクリスティーナしてるじゃないか。


会おう!!


僕は思い切ってクリスティーナにそう言った。

ひとつ返事でOKをもらい次の日に

会うことに。


翌日、よく晴れた日だったのを覚えている。


トントン拍子にうまく行き過ぎていて怖いが昨日の夜からムスコがパンパンだ、このままトントン行ってくれよ。


僕は緊張と興奮に包まれながら待ち合わせの場所へと向かった。


頼む、居てくれ!!


そう祈りながら路地を曲がり待ち合わせ場所を見渡した。


…居ない。


クリスティーナは居なかった。

代わりにウィル・スミスみたいな顔をした背の高い女が立っているだけだった。

なんだこいつは、薄っすらヒゲ生えてきてんじゃねえか。オカマか貴様!気持ち悪い。


まだ着いてないだけかもしれない。僕は諦め切れずクリスティーナにメールを送った。


ピロリロリ〜ン♪


おっとクリスティーナからの返信だ!やっぱり遅れてるだけなのねッ






「もう居るよ。」


 



おい嘘だろ…

嘘だろぉぉおおおおッ!

こいつがクリスティーナかよ!

ただのウィル・スミスじゃねぇか!


はっ!逃げなきゃ!

逃げなきゃヤられる!!




モシカシテ、H君?



ここで違いますと言えたらどれだけよかった事か。

僕は正直者なんだ。両親からも愛情を注いでもらって真っ直ぐに育って来たんだ。口が裂けても違いますなんて言えなかった。


あ、はい。


ヨカッタ!キテクレタノネ。サァ、イキマショウ。


行きましょう?クリスティーナ、貴方は僕を何処へ連れていってくれるんだい?


あ、あの、どっ、何処へ?


ウフフ、フタリダケニナレルバショ♪


ヤバイぞ。まだ逃げるには遅くない。逃げるなら今しかないぞ。

逃げなきゃシオシオになったムスコが腐り落ちてしまう。


ガシッ


ウフフ♪


腕を組まれたぞぉぉぉおッ!

もう逃げ場はないってね!

周りの視線が辛ぁーい!

わー!


……


まさか初めてのラブホテルがウィル・スミスだったなんて。なんて残酷な未来なの!過去の自分が知ったらどうなってしまうの!きっと首を切って死んでしまうわ!


さぁ、始まるんだ…

ホテルに来たって事は始まってしまうんだ。



サァ、フクヲヌイデ。



ええい、ままよ!

さぁ!裸になったぞ!

オラァ!!



ヌガセテ♪



やったらぁ!

なんぼでも脱がせたらぁ!

オラァ!!


な、なんだこのオッパイは!?

あまりにも形が整い過ぎているぞぉ!さては豊胸か貴様ぁ!


お次はパンツだオラァ!!




ボロぉ〜ン


ギャァアアアアアアアアア!!!!!




次の瞬間、僕は服を着て深々と頭を下げていた。少し泣いていたと思う。

クリスティーナも心情を察してくれたのかそれ以上は望まなかった。

僕はクリスティーナにホテル代の半分を渡すと逃げる様に部屋を出た。


……


これが僕のお墓まで持っていくはずだったお話。


 数年後、僕はアイアムアレジェンドというDVDを観た。

本当に良い映画で凄く面白かったんだけど

なんでかな、心がチクチクしたんだ。